【動物実験】

平成 20年 3月 13日 掲載

私が動物問題に関心を持つようになったのは今から十年ほど前のことで、きっかけは「動物園の動物は幸せなの?」と書かれた一枚のチラシでした。それ以来、人とかかわるさまざまな動物たちのことを考える機会を得ましたが、その一つに実験動物があります。一般には医療の発展のために使われる動物をイメージしますが、実際には食品や家庭用品などさまざまな分野で動物実験は行われています。

私は本業が歯科医師なので、学生時代にわずかながら犬や猫、うさぎの実験も経験しました。犬の場合は人によく馴(な)れた一匹の雑種が保健所から払い下げられました。交感神経、副交感神経を刺激して呼吸の変化を見る実習で、最後は薬剤で処分しました。

指導教官から「麻酔をするので苦しむことはありません」と言われましたが、休憩時間に犬の様子を見に行ったら涙を流していることに気がつきました。麻酔が浅くなっていたのが原因でしたが、犬の涙を見て胸がつまりました。

医療の発展のため、と一言で済ませてしまうのは簡単ですが、その一方で、本当に必要な実験だろうか、という観点からできるだけ動物実験を減らそうという世界的な動きもあります。その一つが代替法といって、例えば解剖実習の際に生きた動物の代わりに精巧なモデルを用います。日本でも亡くなったペットを解剖実習に提供してもらおうと獣医学
生らが「動物献体ネットワーク」を結成する動きもあります。

また、ほんの十年前は保健所から動物実験に払い下げられた犬や猫が全国で年間一万匹以上いましたが、動物愛護の気運から徐々に減り、平成十八年度にゼロになりました。人々の意識の変化が新しい社会をつくっていく、ということでしょう。化粧品では動物実験をしていないことを明記して販売している商品もあるので、個人的にはそういったものを使うように心掛けています。

ところで、新潟市内で「いのちの食べ方」というドキュメンタリー映画が上映中なのはご存じでしょうか。淡々と映し出される食の生産風景は、畜産動物のみならず、私たちの口に入る食べ物について深く考えさせられました。原題は「日々の糧」です。

 


下越動物保護管理センターで保護されていた犬


ごみ捨て場に捨てられていた猫。

10年前までは、こうした動物たちが実験用に払い下げられることもあった

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