【のら猫】

平成 19年 2月 22日 掲載

人の気持ちというのは不思議なもので「捨て猫」と聞くとかわいそうに思うけれど「のら猫」と聞くとマイナスのイメージを持つ人も多いように思います。のら猫は野生動物ではありませんから、かわいそうな捨て猫が何とか生き延びると、今度は歓迎されないのら猫になるという事です。

もともとのら猫にあまり関心がなかった私は、その背景にたくさんの問題がある事を知らずに過ごしてきました。ある時、のら猫のお世話をしている人の話を聞きました。たまたま冬の寒い日に、多くの人が行き交う雑踏の片隅で、じっとうずくまる猫に出合ったのがきっかけだったそうです。

頭上にいるハトを捕まえようと何時間も待つ猫がいる事や、寒さで冷たくなった猫の亡きがらを埋葬した事など、のら猫の厳しい現実を聞きました。夏場は飢えをしのぐために昆虫を食べ、バッタなどの固い羽が便に混じって排泄(はいせつ)できずに死ぬ猫もいるそうです。そこには縁側でのんびりとひなたぼっこしているイメージとは別の姿がありました。

庭木を荒らされたり糞(ふん)害で迷惑に思う人、道端で子猫を拾い途方にくれる人、思わず餌を与えてしまう人、のら猫との関わりは人によってさまざまです。いずれにせよ、のら猫がいなければ誰も悩む事はないのに現実はそうではありません。毎年の猫の処分数が減らない事から推測しても、彼らをめぐる問題は解決に向かっていません。

のら猫の寿命は三年から五年ほどですから、そのわずかな時間を幸せに過ごせるように、そして、これ以上さまざまな問題に悩む人が増えないように、私たちは何をすべきでしょうか。捨てない事、増やさない事、今ある命を大切にする事で、みんなで解決していけると信じています。

子猫に餌を与えるために、ハトをじっと待ち続けた片目のない母猫は、その後、お世話をしている方が不妊手術を受けさせて、今も現場でごはんをもらっています。手術の前に生まれた子猫のコロタンは、今は「飼い猫」として幸せに暮らしています。遠い昔、人と幸せに暮らした母猫の思い出が、コロタンを通してようやくお家に戻る事ができました。

 

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