多頭飼育場改善活動

多頭の犬たちの全頭譲渡が決まりました。
9年間の心よりのご支援、本当にありがとうございました。

2002年、犬猫など90匹近くを一人の男性が劣悪な環境で飼養しているとの通報から関わることになった新潟市の劣悪多頭飼育現場、改善活動から6年目、相変わらず動物とゴミに対して収集をやめない飼い主に対し、強制執行を断行。
新潟市保健所のご協力もあり、現場の全ての犬たちを新しい飼い主のもとへ送り届けることができました。

あの子たちは今、愛情いっぱいうけて幸せに暮らしています。
高齢でなおかつ育った環境から人間不信になってしまった子たちをあたたかく家族に迎えてくださった里親さんに感謝するとともに、9年間の活動を支え応援してくださったみなさま、本当にありがとうございました。

●発見当初の現場 (H14年6月)

2002年(H14年)の6月、犬猫80匹近くが悲惨な状況におかれている飼育現場があるとの通報を受け、初めて現地に出向きました。
「人が入ってくると動物に汚い菌が移るから入るな!」
と罵声をあびせられるも、毎週フードの提供に足を運び、少しずつ飼い主と話が出来るようになりました。
飼い主の男性曰く「かわいそうな動物を見捨てて置けずに集めているうちに手に負えない数になってしまった」ということでした。

現場は想像を絶する劣悪な環境で、光も入らない木箱やケージ、廃車やコンテナに動物を一日中閉じ込め、周辺の土壌には糞尿が堆積して虫が湧き、残骸があちこちに放置されていました。
(当時の掃除で15体ほど確認)
犬の登録・狂犬病予防接種はされていませんでした。

飼い主の男性は動物たちを散歩に連れて行かず、餌は週2~3回の学校給食の残飯を与え、水はやらず、犬の中には精神状態がおかしくなっているものもいました。

現場に放置する残飯にカラスやネズミが大量に集まり、周辺の田畑の所有者や近隣住宅が行政に不安や苦情を訴えたが、行政の対応は無かったとのこと。

また、産業廃棄物を含む大量のゴミが集積しており、農地でありながらも足の踏み場もないような状態でした。
(旧新津市役所の協力により、当初粗大ゴミだけでも2トントラック2台分を回収)


●飼い主について

不妊去勢手術と里親探しで、飼い主が飼養できる数に減らす約束で作業を開始したものの、すぐに飼い主が「動物(とゴミ)の異常なまでもの収集癖者(アニマルホーダー)」であることが判明(俗に言うゴミ屋敷に動物たちが沢山飼育されているという状況)。
飼い主は路上に停めた車の中やコンテナで生活していました。

動物に対して異常なまでの執着心をもっており、自分で飼育不可能な状況にあるにも関わらず、次から次へと動物を引き取り(1年間30~40匹)、全く状況は改善されませんでした。

現場には純粋な柴犬、小型犬などの繁殖済みの雌犬(雄犬も)数多く入り、この飼い主に不要犬をまわす「悪質な繁殖業者」がいるものと思われます(保健所通報済み)。

また、飼い主が対外的にこの多頭飼育現場を「自分が中心になってボランティアと一緒にやっている保護施設」と説明していたため、それを信じた人の動物の持ち込みが何件かありました。

新潟市保健所が犬の登録・狂犬病予防接種の指導を行ないましたが、飼い主は全く聞き入れませんでした。
動物愛護家が動物の救出の為に「新しい飼い主」を探すのに対し、飼い主は「動物を手元から放す=動物が殺される」という考えがあるため、現場の犬が逃げ、捕獲を試みようとした新潟市保健所の職員に対し、「犬を殺す気か!」と体を突き飛ばし、棒を振り回し追い払ったり指導に立ち入ろうとした際に男性職員3名に水をかけ威嚇するなどの暴行行為もありました。

NDNとしてH17年には「狂犬病予防違反」として行政で対応するよう要望書を提出し、「早急の措置を行なう」との返答を得ましたが、対応はされないままでした。


●現場での改善活動 (H14年~20年6月末まで)

①自家繁殖を防ぐための不妊手術の施行(開始時 犬25、猫13)
②フィラリア予防薬の投与
③週2回(日・水)の現場改善活動 
  犬猫の給餌・給水・散歩・ゴミの処理・犬小屋の修繕。足元の整備など
④フード・現場設備の提供
  寄付による物品の他、フードや治療費、設備代を負担
  (寄付金により年間約60万)
⑤犬猫の救出実績
  改善活動開始時81匹(成犬68匹、成猫13匹、鳩数羽)
  現在まで現場からの譲渡数、犬猫あわせて200匹以上
  H20年6月末時点の数、犬27匹、猫26匹、鶏17羽、鳩7羽


●強制執行へ (H19年秋~H20年7月3日)

飼い主の機嫌を損ねると、現場への立ち入りが出来なくなり、動物たちの世話が出来なくなるため、スタッフは憤りを感じながらも我慢して作業を続けてきました。
これ以上飼い主と関わっていくのは困難ではないか?と現場作業からの撤退の話も出ましたが、作業をやめる事は出来ませんでした。
現場に残された犬猫のために・・・

活動当初、借金のため「立ち退き」を迫られていた飼い主が「このままでは動物たちの居場所がなくなってしまう」と泣きつき、スタッフの一人が代返済をした敬意がありました。
飼育可能な頭数まで減らす事と月々の返済を約束しましたが、代返済が終わったとたんに態度を急変、減らすどころか動物を増やす収集癖者であることが判明。
月々の返済も催促した時だけで、1年半返済が滞ったことから弁護士に相談し、裁判により土地はスタッフのものとなりました。
それでも動物(年間約30匹)とゴミの収集をやめない飼い主に対し、立ち退きを迫り「強制執行」を断行しました。

強制執行の後、残された動物たちは譲渡などで頭数を減らし、里親が見つからなかった子達は現場で世話を続ける計画でしたが、強制執行前夜に飼い主が動物たち80匹とともに現場から姿を消してしまいました。


●新潟市保健所が緊急一時保護/市と県に要望書提出(H20年7月)

すぐに現場からほど近い休耕田に、犬26匹・鶏18羽を炎天下に係留されているのを発見。
現場には日よけも無く、餌や水を与えた形跡もなく犬猫は衰弱していました。

7月5日、犬3匹が熱中症で倒れ病院へ搬送。
他の犬・鶏も命の危険があったため、新潟市保健所が緊急避難のため一時保護を決断
犬・鶏は新潟市抑留所と県央動物管理センターに保護されました(全国でも前例のない措置)

NDNは新潟市長あてに安易に飼い主に返還しないよう要望書を提出。
また新潟県知事に条例の改正を求める要望書を提出。
県としても条例の必要性は感じており、実効性のある条例とすべく、NDNとも協力をしながら準備を進めて行きたいとの返事をいただきました。


●1年間の保護期間を経て念願の譲渡へ (H21年7月)

緊急保護より1年間、新潟市保健所の施設で保護された犬・鶏たちは、休み返上で保健所職員さんが交代で世話をしてくださいました。

そして、保健所が飼い主と取り決めを交わし、その回答期限が過ぎた後も具体的な行動が示されなかったため、保健所が今回の判断を決定しました。


●譲渡に向けて心のリハビリの開始

多頭の子達は、若くても7~8歳にはなっていて、老齢のため白内障や心臓が弱ってる子もいました。
NDNスタッフと、1年間の新潟市保健所の職員さんのお世話により、少しずつ心は開いてきたものの、大半の子達が人間に対して恐怖心と警戒心を持っており、心のケアやリハビリが必要でした。

譲渡に向け、少しでも人との生活に慣れ、里親さんに迎えてもらいやすくなるように、NDNスタッフ宅での一時保護がはじまりました。
人のそばで生活するという自体が初めての犬たち。
毎日決まった時間にもらえるおいしいご飯、毎日連れて行ってもらえる大好きな散歩、怯えていた表情がだんだんと穏やかな表情へと変わって行きました。


●あたたかく迎えてくれる家族のもとへ・・・

当初、「譲渡には難しいのでは・・・」と思われていた子達でしたが、マスコミ各社さんからも取り上げていただき、度重なる譲渡会の開催、会報やホームページでの里親さん募集により、「ぜひこの子を」と心あるさとおやさんから迎えてもらうことができました。

最後に残った白内障と心臓病の投薬が必要な子を一時保護していたスタッフが家族として迎えることになり、2010年4月に全ての犬たちに新しい家族が決まりました。

今、あの子達は「大多数の中の1匹」ではなく、「かけがえのない大切な家族」として、あたたかいご家族に囲まれながら幸せに暮らしています。

「今まで悲しい思いをしてきたので、犬が嫌がることはせず、大好きなことだけさせてあげようと思います」

「この子の性格なので、長い目で見ていこうと思います」

と犬たちに寄り添ってくださる里親のみなさまにスタッフ一同感謝しております。

また、現場の改善作業への参加、日本全国からのご寄付、フードや毛布などの物資の提供、応援のお手紙など、9年間の多頭飼育現場の改善活動を支えてくださったみなさま、本当にありがとうございました。

<新潟動物ネットワーク 多頭飼育改善班>

 

今もなお、日本各地では「劣悪な多頭飼育現場」が問題になっています。
今回活動を通して痛いほどわかったのは「法律がなければ行政も警察も動けない」という事でした。

NDNが関わった現場は「強制実行」が出来る事情があったこと、行政の協力が得られた事により解決に至った全国でもまれなケースといえます。
飼い主が権利放棄をしなければ動物たちを勝手に取り上げることは出来ず、また飼い主の許可なしには行政も建物の立ち入りが出来ません(新津の多頭の猫たちもこの状況下にあります)

行政(動物福祉・飼い主の生活改善や心のケア)、警察・消防関係が一体となり「多頭飼育問題」へ取り組む国レベルでの対策(法律)が早急に確立されるよう今後も働きかけていきます。

この現場で関わった犬たちの一部を掲載しています

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